大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1382号 判決 1968年4月26日
被控訴人 華僑信用金庫
理由
本件に対する当裁判所の事実認定と判断は、原判決の認定、判断と同一であるから、ここに原判決の理由を全部引用し、次の説明を付け加える(但し原判決五枚目裏九行目の「成立に争のない乙一号証」を「当審証人原田良彦の証言とそれにより真正に成立したものと認められる乙一号証」と変更する。)。
本件異議申立提供金一二〇万円は、控訴人所持の手形三通の引受人たる訴外大東食品株式会社が手形金を支払わないことからくる不渡処分を免れるため、被控訴人を経て手形交換所に提供されたもので、被控訴人が従前より前記訴外会社に対し有していた債権の支払に充当される目的で提供されたものでないこと、しかも控訴人の訴外会社に対する手形金債権が確定判決によつて肯定され、控訴人のなした債権仮差押、同差押、転付命令が不当であることの証明のない本件において、控訴人の意表をつくともいうべき被控訴人の相殺によつて被控訴人の債権に充当されることに、控訴人が多分に不満を感ずるであろうことは、当裁判所も諒解できるが、異議申立提供金は、手形交換所の行政処分ともいうべき取引停止処分を免れるため提供されるもので、当然、手形債権者に支払われるものという契約はないし、又手形金の担保の性質をもつものではないこと、民法五一一条の反対解釈その他により、わが国の法制が差押えられた債権であつても第三債務者が自らの債権を以て相殺することを禁じておらず、このことは転付命令が出た後であつても変更はないとみるのを相当とするので、控訴人の本訴請求はこれを容るるに由ない。控訴人は、転付命令の方が相殺の意思表示より先であるから、被控訴人には相殺の対象となる受働債権が存在しないと主張しているが、被控訴人のなした相殺の意思表示は、相殺適状の時に遡り、それは被控訴人が手形交換所より提供の返還を受けると同時にこれを提供者に返還すべき義務を生じた時(昭和四〇年一二月一四日)であつて、控訴人の転付命令が効力を発生した時期と全く時を同じくし、両者に先後の差別はなく競合したと見るべきである。又この提供金が被控訴人のための担保として提供せられたものでないことは勿論なるも、このことは被控訴人のなす相殺の意思表示を妨げるものではなく、控訴人も被控訴人もともに訴外大東食品株式会社に対する債権者であるから、被控訴人の相殺権行使を以て信義誠実の原則に反するものとなすこともできない。
されば、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却。